大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和53年(行ウ)14号 判決 1981年2月09日

原告 姫路赤十字病院

被告 兵庫県地方労働委員会

補助参加人 日本赤十字労働組合姫路支部

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が、兵庫県地方労働委員会昭和五二年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について、昭和五三年二月一〇日付でなした不当労働行為救済命令は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告はその肩書地において日本赤十字社の経営する病院であり、補助参加人は日本赤十字社の従業員で組織されている日本赤十字労働組合の支部であつて、原告病院及び姫路血液センターの従業員を構成員とする労働組合である。

原告は昭和五二年四月一九日従業員(補助参加人組合の組合員)である龍田敏子を解雇し、被告は、原告を被申立人、補助参加人を申立人とする昭和五二年(不)第六号姫路赤十字病院不当労働行為救済申立事件について、昭和五三年二月一〇日付で左記主文の命令(以下本件救済命令という。)を発し、右命令は同日原告に交付された。

(一) 原告は補助参加人との間で、龍田敏子の解雇問題並びに昭和三五年一〇月四日付人事委員会に関する協定書及び昭和三七年一二月一八日付協定書に関する件につき、補助参加人の委任に基づき総評兵庫県地方評議会(以下県評という。)及び総評姫路地区評議会(以下地区評という。)の役員の参加する団体交渉に応じなければならない。

(二) 補助参加人のその余の申立ては、これを棄却する。

2  しかし、本件救済命令は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する被告及び補助参加人の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

三  本件救済命令の適法性についての補助参加人の主張

1  昭和五二年五月一六日の本件団体交渉に至るまでの経過

(一) 原告においては、昭和四九年以降、赤字財政を理由として合理化五か年計画を作成し、人員の削減を計つている。そして、原告は右合理化に反対する補助参加人の弱体化を図るために、次のごとき不当労働行為をくり返してきた。

すなわち、(1)昭和四九年度の定期昇給を原告病院のみ八月まで実施しなかつたこと、(2)昭和五〇年四月東書記次長を、ミスを理由として配転したこと、(3)昭和五〇年六月二三日の団体交渉において、放射線科の欠員補充を確約しながら、組合員の紹介による放射線技師を不採用にし、欠員を補充しなかつたこと、(4)昭和五〇年一二月二九日、組合の一斉休憩戦術の徹底化及び、病院側の看護体制の確認のため、パトロール中の川添栄子執行委員が看護婦詰所前室から医師の指示にも拘らず退室しなかつたとして、同人を処分したこと、(5)昭和五一年九月ころ、組合員に対して、脱退の強要、示唆をしたこと、(6)その他、管理職を増やすとか、組合ビラの撤去、組合旗の撤去、集会に対する監視等の嫌がらせ行為をしたことなどである。

(二) 本件団体交渉の交渉事項となつている龍田敏子の解雇問題とは、同人が昭和五二年二月一八日、他の二名の者と外科病棟の準夜勤務に従事していたところ、当直婦長であつた大賀澄子から、「内科の患者であるが、内科に空床がないので、個室がないか。」との問い合わせに対し、当時、食道静脈瘤で意識喪失状態の患者を含め、重症患者が五名いたので、龍田敏子はこの点を説明したのにかかわらず、原告は龍田敏子を解雇したという件である。

右解雇処分に対して、同人は、神戸地裁姫路支部に地位保全の仮処分申請を行ない、同支部は、昭和五二年五月二六日付で右申請を認める決定を下した。右決定後、同人は、本訴を提起し、同支部昭和五二年(ワ)第二四九号事件として審理されている。

補助参加人は、龍田敏子の解雇問題は、前述した一連の組合弾圧の延長線上にあるものと把握し、県評や地区評にも支援を求め、解雇撤回闘争に取り組んできたものであり、本件の団体交渉申入れはその解雇闘争の一貫として原告に要求していたものである。

2  本件団体交渉拒否の不当労働行為性

(一) 原告の団体交渉に対する態度

原告の側では、従来は団体交渉に院長、副院長など、最終決定権限を有する者が出席していたに拘らず、昭和五一年五月ころから、特段の理由も明らかにすることなく、これらの者が団体交渉に出席しなくなつた。このため、団体交渉の交渉事項はスムーズに処理されず、空転することが多くなつてきており、原告の団体交渉軽視の態度は顕著である。

そして、県評や地区評などの代表者が団体交渉に出席することについても、原告は、従来これを認めていたに拘らず、昭和五一年九月ころから、これらの者の団体交渉への出席を拒否するようになつた。その当時の原告の主張は、従来の方式で行う旨を応諾しておきながら、突如として外部団体の人を団体交渉の場に導入したというものであつて、委任の対象が団体に対するものであるから拒否するとか、あるいは委任の形式を問題にするとかのものでは決してなかつた。

(二) 本件団体交渉拒否に至る経過

(1) 補加参加人は、昭和五一年四月二一日、龍田敏子の解雇処分に関する団体交渉の申入れを原告に行ない、原告は、同日、右団体交渉に応じる旨応諾した。

(2) 団体交渉日である同年四月二二日、地区評の竹内邦夫が出席し、委任状を示した。しかし、原告側交渉委員は右委任状を確認しようともしないで、退席してしまつた。

その後、同年五月九日に、補助参加人は五月一一日の団体交渉に地区評が出席する旨の申入れを行なつたところ、これに対して、前日に原告側から「正式な手続によるものか」との問い合わせがあつたので、補助参加人は、「正式な手続によるものである」旨の回答書を提出した。しかるに、原告側交渉委員は、外部の者が入つている団体交渉であるとの理由で、五月一一日も団体交渉を拒否した。

(3) 五月一八日被告において、本件に関する「あつせん」がもたれた。右「あつせん」の場において、大久保公益委員は、双方を個別に呼び、補助参加人に対しては、「事態を解決するために総評として誰々が担当するものであるかを明確にせよ。」という話がなされた。そこで、右要請に応じて、補助参加人は、原告に対し、委任状を提出した。これに対し同年五月二一日原告側から同月二六日の本件団体交渉に応じる旨の応諾書が提出された。

(4) そこで、同年五月二六日に、補助参加人としては、当然本件団体交渉が開催されるものと考え出席したところ、意外にも佐藤義夫事務部長は、「この委任状は、団体に対するものか、個人に対するものか」との質問をしてきた。これに対し、補助参加人側は、「大久保公益委員の指示に従つたものである。」旨の回答をしたが、原告側は、この委任状は肩書が付されており、団体に対する委任状であるとして、団体交渉に入ることを拒否してきた。このため、県評の奥事務局長が、肩書を消し個人の資格にすれば応じるのかと詰め寄つたところ、「仮空の問題であるから答えられない。」として拒否するに至つたのである。

(三) 右の経過に鑑みれば、原告は労働組合特に総評系の県評あるいは地区評に対する嫌悪の態度が著しく、団体交渉自体をも軽視していたものであつて、本件団体交渉も、「委任状の形式」を問題にすることによって、これを実質的に拒否したものであつて、右拒否につき、正当な理由がないものといわなければならない。

3  そこで、被告は補助参加人の救済申立を理由があると判定して、原告が請求原因1において主張するように、原告は本件団体交渉に応じなければならない旨の本件救済命令を発したものである。

四  補助参加人の三の主張に対する原告の認否、主張

1(一)  同三の1、2の事実は否認する。

(二)  同三、3の事実は認める。

2  被告は、本件救済命令において、昭和五二年五月二六日の本件団体交渉につき、原告病院の佐藤事務部長の個人か団体かとの質問に対し、県評の奥事務局長が、「団体として委任を受けたもので、役員として参加している。個人として来られるわけがない。」と答えたと認定している。

しかしながら、奥事務局長は、「役員として参加している。」との発言をした事実はなく、「団体として来ている。個人として来られるはずはない。」と答えたのみであるばかりか、当時の事情からみて右の「団体として来ている。」との発言の中に「団体の役員として来ている。」との趣旨が包含されていると考えることもできない。したがつて、この点において本件救済命令には明らかに事実の誤認がある。

3  被告は、本件救済命令において、原告の補助参加人に対する態度を問題にしているが、これはつぎの理由により当を得ていないものである。

(一) 被告は、本件救済命令において、原告が数日間何らの照会もせず、団体交渉の席上卒然と質問を発したことを問題としているが、それはあつせんの経過、委任状の形式からみて、まず個人に委任したことはほぼ明らかであつたから、佐藤事務部長はそれを確認のため問合わせたにすぎず、その結果、予測と相異し、あつせんの際の公益委員の発言と異なつた答が返つてきたため、紛議を生じたものである。この点、あつせんに従わず、形式だけは従い、実体は団体に委任するという補助参加人の態度こそ問題とされなければならない。

(二) 被告は、本件救済命令において、原告病院の吉井職員課長らが昭和五二年四月二二日の団体交渉の最後に総評とは話合いできないと言つたとして、その発言を問題としているが、これは、地区評の交渉委員が団体交渉の席上でではなく、その終了後院長に面会を求めた際、右吉井らがこれを拒否する言葉として発言したものであつて、それ以上格別の意味はない。

(三) 原告が、あつせんの際、補助参加人とだけの交渉を希望したことをもつて、総評嫌悪、団体交渉忌避の表徴とされることはまことに意外である。すなわち、あつせんは、事件を解決するため双方の主張の要点を確かめなければならないが、そのためには双方の主張、希望、考えを率直に述べさせることが事件解決につながると考えられるからである(そのためにあつせん員に守秘義務が課せられている)。

(四) 被告は、本件救済命令において、昭和五二年五月二六日の本件団体交渉における委任状の受任者の肩書抹消について、佐藤事務部長が仮定の問題に答えられないと述べた点を問題とされるが、総評嫌悪、団体交渉忌避とされるかどうかは、奥事務局長が一歩進んで肩書を採用した後に考慮さるべきことがらである。右団体交渉の席上で、原告としてあつせんに忠実であろうとしているものであるから、補助参加人としてもあつせんに忠実であるべきであつて、原告のみが右の点で非難せられる理由はない。

4  昭和五二年五月一八日被告によるあつせんの結果「組合は正式の委任状により地区評の役員個人に委任した上で、改めて団体交渉を申し入れることになり、その場合は病院も団体交渉に応じるようにしたい」ということになり、団体交渉の委任は、団体に対して行わず、個人に対してのみ行う旨の協定が成立した。したがつて、右協定の成立を否定した点において、本件救済命令には事実の誤認がある。

5  被告は団体交渉を団体に委任することは当然に許されるとする。しかしながら、次のような理由から団体交渉の委任は自然人に限られるべきである。

すなわち、労働組合法六条にいう「委任を受ける」というのは、使用者と事実上の交渉を行うことを委任される意味であるから、その性質上、受任者は自然人に限られるものである。法人に権利義務の帰属する法律上の交渉ではなく、事実上の交渉では法人に権利義務が帰属しないから、たとえ、法人の機関が行為したとしても、それは法人の構成員が個々に行為したにすぎないからである。

したがって、法人に団体交渉を委任することは無意味であつて、おのずから受任者は自然人に限られることになる(このことは人格なき社団であつても同様であるから以下両者を含めて団体とする)。

また、団体を受任者とすることは、団体という多数人の集団と交渉することであつて、大衆団交を認めるに等しい。というのは、団体の機関が行為したとしても、或いはまた団体の構成員それぞれが行為したとしても、法的には同価値であるからである。大衆団交をさけるために団体の機関すなわち代表者と交渉すればよいとするのは、団体に権利義務が帰属するのでないから、団体の機関でなくとも、団体の構成員なら誰でもよいことを無視するものである。

さらに、団体交渉という継続する過程において、それを円滑に進行するため交渉担当者を固定化する必要があり、その固定化のためにも自然人にかぎるのが合目的である。

このことはたんなる運用上の問題ではありえない。自然人の場合においては運用上の問題であろうが、団体においては以上のごとく担当者が誰であつてもよいのであるから、受任者が団体であるかぎり、交渉担当者が固定化しないで、流動化するのは当然の理なのである。この点においても、自然人に限らるべきである。

したがつて、本件救済命令は労働組合法六条の解釈を誤つたものといわなければならない。

6  労働組合が第三者に団体交渉を委任するには、組合大会の決議を要するところ、本件団体交渉の委任は、この手続を欠いている。仮りに執行委員会において第三者に対する委任決議がなされ、右決議内容が、それによつて交渉権限のみを委任するものであり、また第三者と執行委員とがともに交渉に参加するものであるとしても、これによつて組合大会の決議が不要になるとは解されない。

第三者に団体交渉を委任することを組合大会の決議事項とする所以が、組合民主主義の貫徹をはかろうとする趣旨であるとすれば、第三者の強大な勢力を期待して第三者に団体交渉を委任するのであるから、第三者に妥結権限を与えないとか、あるいは特定の第三者のみに団体交渉を委ねないとかいうことのみで、組合民主主義の保障は期しがたい。

なお、闘争委員会の決議によつて第三者に団体交渉を委任したとしても、白紙委任的な闘争委員会への授権をもつて、組合大会の決議に代りうるものということはできない。かつ闘争委員会への授権の根拠、闘争委員会そのものの権限が不明な本件においては、なおさらである。

7  本件団体交渉の交渉事項にあたる龍田敏子の解雇の件につき、同人はすでに神戸地方裁判所姫路支部の仮処分決定により従業員たる地位を保全われ、かつ本案訴訟が既に係属中であつて、同人の解雇問題は右訴訟により解決される可能性が高いので本件救済命令の救済利益は乏しい。

8  被告は、地区評等の役員が個人として委任を受けたのか、或いは委任を受けた地区評等の役員として地区評等を代表して交渉するのかは本質的に重要な問題ではなく、終局的に問題になるのは、県評及び地区評の役員が補助参加人の委任に基づいて団体交渉に参加することが許されるかどうかにあるとされる。

しかしながら、補助参加人が救済を求めているのは県評及び地区評への委任による団体交渉を原告が拒否したとする点にあり、役員が個人として出席する団体交渉を拒否したことに対して救済を求めているわけでない。

現に、被告が終局的な問題とされる県評及び地区評の役員が補助参加人の委任を受けて団体交渉に参加し得るかどうかという点は、何ら労使間において問題とされておらず、また、原告は、団体の役員すなわち県評及び地区評の役員から団体交渉の申入れを受けたこともなく、したがつて、これを拒否したこともない。そうすると、本件救済命令は補助参加人の救済申立の範囲を超えたものであり、原告が補助参加人から申入れの全くない団体交渉までも拒否したとして、その不当労働行為を認めた点で、違法を免れない。

しかも、本件救済命令は、その主文において、受任者を団体であるか、個人であるかを特定せず、抽象的な文言のまま発せられているが、団体に対する委任がかりに許されるとしても、受任者は県評あるいは地区評という団体に限定して発せられるべきである。

9  本件救済命令は、その理由で、団体が団体交渉の受任者となつた場合、受任事務の処理をするのは、当該団体を代表する者であるとしながら、その主文で、役員の参加を是認したことは、右命令の主文と理由の間に齟齬がある。

蓋し、県評、地区評を代表する機関は役員一般ではなく、役員のうちの議長であるからである。

10  以上のとおり、本件救済命令は、事実を誤認し、あるいは法律の解釈と適用を誤つた違法な行政処分である。

五  原告の四の主張に対する被告の反論

1  原告が同四2において主張する昭和五二年五月二六日の本件団体交渉の模様は以下のとおりである。すなわち右団体交渉の冒頭、原告の佐藤事務部長が県評の奥事務局長らに対し「個人でおこしになつたのか。団体でおこしになつたのか。」と質問したところ、同事務局長は「個人で来られるわけがない。あくまでも団体の資格で来たんだ。」と答えた。そもそも右質問は、原告において、右団体交渉の席上示された委任状が、受任者として列挙された個人に対する委任であるか、受任者の肩書にある県評等の団体に対する委任であるか、を問題とし、同事務局長らがどのような立場で団体交渉に参加しようとしているのかを尋ねたものであるから、「団体でおこしになつたのか。」という質問は、県評等の団体が受任し、その団体の役員として(もしくは、その団体を代表する者として)参加しているのか、との趣旨であり、「団体の資格で来たんだ。」という回答は、同事務局長の場合に即していえば、受任者は県評であり、県評の役員として(もしくは県評を代表する者として)参加している、との趣旨に理解すべきである。

2  原告は、同四、4において、補助参加人の委任の仕方があつせんの結果と異なることをもつて、補助参加人を非難し、本件団体交渉拒否を正当化しようとしている。なるほど、あつせんにおいて、地区評の役員個人に委任した上で改めて右団体交渉を申し入れることとし、かつ、少なくとも形式上はそのとおりの委任状を作成提出しながら、なお地区評等の団体に対する委任に固執する態度を示した補助参加人のやり方にも問題があり、本件の場合、それが紛争を生ずる契機となつたことは否みがたいけれども、本件におけるあつせんの結果は、補助参加人が地区評の役員個人に委任して団体交渉を申し入れることになり、この場合には、原告としても団体交渉に応じるようにしたいというに止まり、団体交渉促進のあつせんとしては、一応解決の手がかりが得られたため終結したのであるが、これによつて将来にわたり団体交渉委任の方式が決定されたとまではいえず、いわんや、そのことが明確に協定されたわけでもない。また、このあつせん事項は、いわば権利争議に関するものであつて、利益争議に関するものでなく、しかも、すでに発生した問題の事後処理を図つたものでなく、単に団体交渉の早期かつ円滑な開始を目途としたに過ぎないのであるから、このあつせんによって、補助参加人がしかるべき団体に団体交渉の委任をなすべき労働組合法上の権利を奪うことはできず、あつせんの結果も、補助参加人がこの権利を放棄した趣旨に解すべきではない。したがつて、補助参加人の団体交渉の仕方があつせんの結果と異つていたとしても、そのことが直ちに原告の本件団体交渉拒否を正当化するものではないというべきである。

3  もともと補助参加人としては、地区評並びに地区評を通じて県評に、本件団体交渉についての支援を求めたのであるから、そのための委任についても、基本的に、地区評並びに県評に対する委任であるという考え方が強いのは当然のことである。但し、その結果として現実に団体交渉に参加するのは地区評等の役員個人であるから、地区評等の役員が補助参加人の委任に基づいて団体交渉に参加するに至る過程には、つぎの二つの場合がある。すなわち、

A、補助参加人から地区評等に委任し、地区評等の内部で参加者の人選をしたうえ、補助参加人と参加者との間で打合わせ協議を経た後、受任者地区評等を代表する者として参加

B、補助参加人から地区評等に受任者の人選依頼をなし、地区評等の内部で受任者の人選をしたうえ、補助参加人と参加者との間で委任打合わせをして受任者として参加

の二つの場合があり得る。しかし、実体的には右AとBの間にほとんど差異がなく、極論すれば、委任状に記載された受任者如何によつて、観念的に右AとBとを分別し得るに過ぎない。したがつて、本件のように単に交渉権限を委任したにすぎない場合、右AとBとを峻別して、その法的効力を論ずる実益はないものというべく最も重要なことは、右のABいずれの過程を経るにせよ、補助参加人を支援するため、その委任に基づき地区評等の役員が団体交渉に参加することが許されるかどうか、換言すれば、原告が使用者としてこれに応じなければならなかつたかどうか、にあるものといわねばならない。

4  補助参加人が被告に求めた救済内容は、原告が、県評及び地区評の役員が参加する団体交渉に応じることであつて、その求めた救済の趣旨も、右の基礎に立脚したものと解すべきである。ただ、救済の趣旨に、「上部団体たる」とある点については、紛争の中心点が団体交渉委任の問題であり、かつ、委任に基づく以上、県評及び地区評が上部団体であるか否かは直接関係がないので、本件救済命令は「申立人の委任に基づき」として救済したのである。よつて、本件救済命令は救済申立の範囲を超えたものである、という原告の同四、8の主張も当を得ない。

5  原告は、同四9において、本件救済命令には、その主文と理由の間に齟齬があると主張している。しかし、本件救済命令が、その理由で、団体が団体交渉の委任を受けた場合、受任事務の処理として交渉に当るのは当該団体を代表する者である、といつているのは、団体が受任者の場合大衆団交となるという原告の主張に応えたもので、受任者たる団体の構成員が当該交渉要員となるのではないことを説示したものにすぎない。それはともかく、ここに当該団体を「代表する者」というのは、あらゆる面で代表権限を有する、いわゆる代表者を指称するのではなく、当該団体を代表して交渉に当る者の意味である。前記のような本来の代表者がこれに含まれるのは勿論であるが、団体交渉という事務の性質からいつても、それに限るものでないことはいうまでもない。本来の代表者以外は、その都度当該団体において選任するのが本則であろうが、一般に、通常の労働組合にあつては執行委員全員、県評や地区評のように、傘下組合の指導、支援等を任務とする団体にあつては、その役員と担当オルグが、受任された団体交渉を行うべき権限と責務を有し、その人数が多過ぎるときは、その中から交渉に必要な人数を選出すべきものと解するのが相当である。したがつて、本件救済命令には、原告主張のように、その主文と理由の間に齟齬があるものということはできない。

六  原告の四の主張に対する補助参加人の反論

(一)  原告は、同四2において、県評の奥事務局長の発言内容を捉え、本件救済命令に事実誤認がある旨主張している。

しかし、奥事務局長が「個人としてなら団体交渉を病院側は受ける意思があるのか、肩書が問題であればこの場で肩書も消す」旨の発言をしていたのであるから、この発言からしても、本件救済命令に事実誤認のないことが明らかである。

(二)  原告は、同四3(一)及び4において、補助参加人があつせん経験に反し「団体」に対する委任であることに固執した態度こそ問題があると主張する。しかし、右あつせんにおいて、補助参加人が個人に団体交渉権を委任し出席して貰うということを約束した事実はない。また、委任状の形式についても、被告により、氏名等を明確にし印紙も貼付した上で団体交渉の申し入れをした方が原告において団交拒否をしにくいであろうという助言がなされたので、右のような形式のものを提出したにすぎない。

(三)  原告は、同四、5において労働組合法六条は自然人への委任に限ると主張している。しかし、特に、労働者の運動が、その団結とか、団体相互の連帯や共闘体制を不可欠としている限り、委任の相手方を、特段の障害がない限り、自然人に限定すること自体明らかな誤りである。

原告は、団体が委任を受けると、交渉委員が変更する等して、交渉が遅滞することがあるかのように主張しているが、これは明らかに誤りである。

(四)  原告は同四、8において、本件救済命令は救済申立の範囲を超えるものであると主張しているが、補助参加人が救済申立をしたのは、補助参加人の委任に基づいて県評及び地区評の役員が団体交渉に出席しようとしたのを拒否されたことに基づくものであり、このことは、昭和五二年五月二六日の団体交渉予定日にも労使間で議論されたのであるから、県評及び地区評の役員が補助参加人の委任を受けて団体交渉に参加しうるかどうかという点は、労使間に於いて問題とされていないとの原告の主張は事実に反するものであり、いずれにしても本件救済命令はその救済申立の範囲を超えたものではない。

第三証拠<省略>

理由

一  本件救済命令の成立

原告はその肩書地において日本赤十字社の経営する病院であること、補助参加人は日本赤十字社の従業員で組織されている日本赤十字労働組合の支部であつて、原告病院及び姫路血液センターの従業員を構成員とする労働組合であること、原告はその従業員であり、補助参加人組合の組合員である龍田敏子を解雇したこと被告は補助参加人の申立に基づいて昭和五三年二月一〇日請求原因1の本件救済命令を発し、右命令書は同日原告に交付されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  本件団体交渉拒否の正当理由の有無

当事者間に争いのない前記一の事実に、証人佐藤義夫の証言、成立に争のない甲第四ないし第一六号証及び原本の存在及びその成立に争いのない乙第一ないし第六号証によれば、次の1ないし7の各事実が認められる。

1  原告は、昭和五二年四月一九日、従業員である龍田敏子に対し解雇の意思表示をしたが、補助参加人は、原告に対し、右解雇の件について団体交渉の申入れをし、原告においてこれを応諾したので、同月二二日、右団体交渉が開催されることとなつた。そして、同日の団体交渉には、原告側からは佐藤事務部長ら五名が、補助参加人側からは補助参加人組合の国土執行委員長ら一〇名と、これに加えて総評系の地区評から広畑議長、竹内副議長ら幹事一〇名とがそれぞれ出席したところ、原告より補助参加人組合の構成員以外の外部の者は退席して欲しいとの申入れがあり、これに対し、右竹内副議長が、補助参加人から地区評に団体交渉を委任した旨の委任状(甲第六号証)を原告に示したが、原告はこれを見ないまま、右団体交渉を拒否した。

2  そこで、補助参加人は、同月二六日、地区評の幹事が出席する団体交渉に原告が応じるよう地労委にあつせんの申請をしたうえ、同年五月九日、原告より補助参加人に対して、前記解雇の件と年末一時金の件について、同月一一日に団体交渉を行いたい旨の申入れをした。補助参加人は、右団体交渉を応諾したうえ、原告に対し書面で右団体交渉には地区評も出席する旨の申入れをした(甲第七号証)ところ、同月一〇日、原告から補助参加人に対し、団体交渉に地区評も出席するというのは正式の手続によるものであるのかどうかとの問合わせ(甲第八号証)があつたので、右問合わせについて、補助参加人から原告に対し、正式な手続によるものであるとの回答(甲第九号証)がなされた。

3  そこで、同月一一日、団体交渉が開催されることとなり、原告側から佐藤事務部長ら五名が、補助参加人側から国土委員長ら一〇名と、これに加えて地区評より広畑議長、竹内副議長、樋口事務局長ら約一二名とがそれぞれ出席したところ、原告から、団体交渉の委任はその受任者が上部団体か個人でなければ許容することはできないのであるから、補助参加人の上部団体ではなく単なる友宜団体にすぎない地区評は、団体交渉の委任を受けることはできないのであつて、この席から退席して欲しいこと、交渉人員は一〇名位にして欲しいこと、補助参加人がそうした措置をしなければ団体交渉には応じられないとの発言があつた。これに対して、補助参加人は、原告の右退席の要求には応じないで、補助参加人から地区評へ団体交渉権の委任をした旨の委任状(甲第一〇号証)を示したところ、原告はこれを受け取つたものの団体交渉には応じないまま、原告側交渉員は全員退席した。

4  同月一八日、地労委において、総評系の地区評等が右団体交渉に参加する件について、大久保委員によるあつせんが行われたが、同委員は、原告側出席者(吉井職員課長ら二名)と補助参加人側出席者(国土委員長ら二名、地区評より広畑議長ら三名)を同席させないで、別々に説得したが、正式のあつせん案は作成されなかつた。

5  そこで、補助参加人は、同月一九日、原告に対して前記解雇の件について、受任者八名の氏名を記載した団体交渉の委任状(甲第一二号証、なお右委任状には、各受任者について、「奥茂吉、県評事務局長」など、氏名のほかに、その所属する団体及び役職が肩書として記載されていた。)を添えて、書面で同月二六日に本件団体交渉をしたい旨の申入れをした(甲第一一号証)ところ、原告もこれを応諾し、同月二六日に本件団体交渉を開催することとなつたが、同開催日に至る間、原告から補助参加人に対して委任状に関する問合わせはなされなかつた。

6  そして、同月二六日、本件団体交渉が開催され、原告側から佐藤事務部長ら五名が、補助参加人側から松本書記長及び東書記次長らと、これに加えて総評より、県評の奥事務局長、地区評の広畑議長ら六名(いずれも前記甲第一二号証に受任者として記載されているもの)とがそれぞれ出席したが、その冒頭において、佐藤事務部長が右の総評関係者六名に対して「委任は個人の資格で受けたのか、それとも団体の資格で受けたのか。」との質問をしたところ、奥事務局長が「個人の資格で来られるわけがない。団体として委任を受け、団体の資格で来たんだ。」と答えた。そこで右佐藤は、「団体に対する委任であり、団体の資格で来たのなら、応じるわけにはいかない。」と告げたところ、右奥から「そうであるなら(受任者の)肩書を消したらどうだ。」との質問があつたが、右佐藤は「そういう仮定のことに対しては病院として返答ができない。」との発言を返し、結局原告は本件団体交渉に応じないまま、原告側交渉委員は退席した。

7  その後においても、原告は、補助参加人から総評系の役員の参加する団体交渉の申入れを受けたが、これに応じようとしなかつた。

ところで、労働組合法六条は、労働組合は団体交渉権限を第三者に委任することができる旨規定しているが、同条に規定の受任者は、その文言上、また同法及びその他の法令上、自然人に限定されているものということはできない。労働組合運動は、団体相互の協力体制を通常の運動形態とするものであつて、この運動形態に鑑みると、労働組合がその交渉力を強化するため他の団体の支援を要請し、これにその交渉権限を委任することは、特段の事由がない限り、容認されなければならないから、同条に規定の受任者を、自然人だけに限定して、団体である法人を除外するのは相当でない。さらに、労働組合は、自らが交渉当事者となつて、第三者たる個人を交渉担当者に加え、またはこれを交渉担当者とする場合だけでなく、団体交渉事項の如何によつては、自らが交渉当事者とならないで、第三者たる団体(たとえば上部団体等の法人)に団体交渉権を委譲し、その団体の代表者をして団体交渉の当事者とさせるのが適当である場合もあるから、同条に規定の受任者を単に個人だけに限定し、団体たる法人への委任を認めないことは、団体交渉権を認めた労働組合法の法意に反し、同条を不当に狭く解釈するものといわなければならない。したがつて、この点から考えても、同条に規定の受任者は、個人のほか、法人をも含んでいるものと解するのが相当である。

そこで、この点を本件についてみれば、前記認定の事実によると、原告は、龍田敏子の解雇の件につき、補助参加人との間で三回にわたつて団体交渉を開いたものの、実質的交渉に至らないままいずれもその団体交渉を拒否し、その大きな理由は、右の団体交渉に補助参加人側の交渉委員として、補助参加人組合の執行委員だけでなく、そのほかに県評あるいは地区評の役員らが出席しており、これらの者の出席は、補助参加人から団体である県評あるいは地区評に対する団体交渉の委任に基づくものであつて、労働組合法の容認しないことであるという点にあつたところ、前示の解釈によれば、原告が右のような理由で団体交渉を拒否したのは正当な理由を欠くものであつて、前記認定の事実によれば、原告が団体交渉を拒否した真の理由は、総評を嫌悪し、県評あるいは地区評の役員個人が団体交渉に参加することを忌避し、ひいては右役員が参加する本件団体交渉を拒否したところにあることが明白であり、したがつて、原告は正当な理由がなく本件団体交渉を拒否したものといわなければならない。

また、原告は、その主張の四、4において、前示の昭和五二年五月一八日の被告によるあつせんの結果、原告と補助参加人との間で、団体交渉の委任は、団体に対しては行わず、個人に対してのみ行う旨の協定が成立したのにかかわらず、補助参加人は右協定の趣旨に反して本件団体交渉の申入れをしたと主張しているが、証人佐藤義夫の証言及び前掲乙第五及び第六号証中の吉井慎一の供述中右協定が成立したとの主張に沿うかのような部分は、前掲乙第一、第二号証中の樋口秀男、前掲乙第三、第四号証中の国土博生の各反対趣旨の供述、及び右あつせんが原告側出席者と補助参加人側出席者とを同席させないで別々に行われたものであるうえ、正式のあつせん案も作成されなかつたなどの前記認定の事実に照らすと、信用できず、他に原告主張の右協定成立の事実を認めるに足る証拠はないから、右協定成立の事実を前提とする原告の前記主張は採用できない。

さらに、原告は、その主張の四、6において、補助参加人が県評あるいは地区評に対してなした団体交渉の委任は組合大会の決議に基づかない無効なものであるから、右委任に基づいて県評あるいは地区評の役員が出席してなされた団体交渉を、原告が拒否するのは正当な理由がないとすることはできないと主張している。

しかしながら、前記認定の事実によると、原告は本件団体交渉の当時右主張の事実を認識しながらこれを理由に本件団体交渉を拒否したとは認められないし、また前掲乙第四号証によると、補助参加人は執行委員会において県評あるいは地区評に対して龍田敏子の解雇の件に関する団体交渉を委任する旨決定したこと、この決定に先だつ昭和五一年四月二三日ころ組合大会が開かれ、すべての組合員に対する不当弾圧に反対するという項目でスト権を確立するとともに、団体交渉を委任する権限を執行委員会(スト権確立後は闘争委員会となる。)に委譲する旨の決議がなされたこと、さらに昭和五二年五月二六日に開かれた組合大会においては、龍田敏子の解雇の件につきスト権が確立されるとともに、団体交渉の委任権限を執行委員会に委譲する旨の決議がなされていることが認められる。

なお、補助参加人が組合大会の決議に基づいて県評等の第三者に対し団体交渉をする権限を付与し委任したかどうかは、補助参加人組合内部のことがらであるから、仮りに原告主張のように組合大会の決議を経なかつたとしても、これを理由に団体交渉を拒否することは許されない。

以上説示したところによれば、原告が、本件団体交渉を拒否するについて、原告主張のように正当な理由がないとすることはできないものとして右主張を認めることはできない。

三  原告のその余の主張について

1  原告は、その主張の四、7において、本件救済命令は、救済の利益が乏しいのに拘らず発せられたものであると主張するが、前記一説示のとおり、本件救済命令は、補助参加人(組合)が団体交渉権に基づいて原告(使用者)との間で、龍田敏子の解雇問題並びに昭和三五年一〇月四日付及び昭和三七年一二月一八日付各協定書に関する紛争を団体交渉により自主的に解決しようとしたところ、原告において不当に右団体交渉を拒否し団体交渉権を侵害したとして、原告に対し、右団体交渉権侵害に対する救済を命じたことが明らかであるから、龍田敏子に対してその従業員としての地位を保全する仮処分決定があり、さらに本件訴訟が係属しているとしても、本件救済命令の救済利益は乏しいということはできないから、原告の右主張は採用できない。

2  原告は、その主張の四、8において、補助参加人が被告に救済を求めたのは、団体である県評あるいは地区評に委任した団体交渉を、原告が拒否したとする点についてであるにも拘らず被告は、受任者が団体であるか、あるいは個人であるかは重要な問題ではなく、終局的な問題は県評あるいは地区評の役員が補助参加人の委任を受けてその団体交渉に参加できるかどうかであるとし、主文において右役員の参加する団体交渉に応諾すべきことを命じたのであり、これは補助参加人の申立の範囲を超えた判断をしたものであつて、違法であると主張し、さらには、本件救済命令は、その主文において、受任者を団体であるか、あるいは個人であるかを特定していないが、団体に対する委任が許されるものとして団体交渉応諾の救済命令を発するためには、右の受任者を県評又は地区評という団体に限定すべきであると主張している。

しかしながら、本件救済命令の主文は、原告は県評及び地区評の役員の参加する団体交渉に応じなければならないというものであることは前示のとおりであるが、前記二認定の諸事実及び成立に争いのない甲第一号証によれば、原告と補助参加人との間で、団体交渉権限を団体に対しても委任しうるかどうかで紛議を生じたのであるが、原告が補助参加人の申入れにかかる団体交渉を拒否した真の理由は、総評を嫌悪し、県評及び地区評等の役員が団体交渉に参加することを忌避し、ひいては右役員が参加する団体交渉を拒否したものであるところから、本件救済命令は、その理由で、補助参加人は団体交渉権限を個人に対してだけではなく、団体である県評あるいは地区評に対しても委任できるという判断をなすとともに、受任者で県評あるいは地区評の代表者としてその役員が団体交渉の場に出席する場合だけではなく、補助参加人より受任した役員個人が出席する場合をも含めて救済する趣旨のもとに、その主文で、原告は補助参加人の委任に基づき県評あるいは地区評の役員の参加する団体交渉に応じなければならない旨、原告に命じたことが明らかであるから、原告の前記主張はいずれも採用できない。

3  さらに、原告は、その主張の四、9において、本件救済命令が、その理由で、団体が団体交渉の受任者となつた場合、受任事務の処理をするのは、当該団体を代表する者すなわちその議長であるとしながら、その主文で、役員の参加を是認しているのは、主文と理由との間に齟齬があるから、本件救済命令は違法であると主張している。

しかしながら、前掲甲第一号証によると、本件救済命令が、その理由中において、「代表する者」といつているのは法律上団体を代表する権限のある代表者のみを意味するのではなく、団体から選任を受けて事実上団体を代表し団体交渉に参加する者を指称しているものと解せられるから、原告の右主張は採用できない。

四  以上の次第であるから、原告の団体交渉拒否は正当な理由がなく、したがつて右拒否を不当労働行為に該当すると判定して原告に対し、県評及び地区評の役員が参加する補助参加人との団体交渉に応諾すべきことを命じた本件救済命令は適法な行政処分ということができる。

よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西内辰樹 野田殷稔 能勢顕男)

〔参考資料〕

命令書

(兵庫地労委昭和五二年(不)第六号 昭和五三年二月一〇日命令)

申立人 日本赤十字労働組合姫路支部

被申立人 姫路赤十字病院

主文

一 被申立人は、申立人との間で、龍田敏子の解雇問題、並びに昭和三五年一〇月四日付人事委員会に関する協定書及び昭和三七年一二月一八日付協定書に関する件につき、申立人の委任に基づき、総評兵庫県地方評議会及び総評姫路地区評議会の役員の参加する、団体交渉に応じなければならない。

二 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。

理由

第一事件の概要

一 事案の骨子として認められる事実は、次のとおりである。

(1) 申立人日本赤十字労働組合姫路支部(以下組合という)は、日本赤十字社の従業員で組織されている日本赤十字労働組合の支部であつて、日本赤十字社の経営する被申立人姫路赤十字病院(以下病院という)及び姫路血液センターの従業員を構成員とする労働組合であるが、

(2) 組合が昭和五二年五月一九日病院に対し、

「<1>懲戒解雇の件、<2>協定書並びに確認書の件」につき、期日を同月二六日と指定し、別紙の委任状を添付して、団体交渉を申し入れたところ、

(3) 病院は、同月二一日文書をもつて、交渉時間帯、交渉委員数等に条件を付しつつも、一旦組合の上記申入れを応諾する旨を回答しながら、

(4) 当日、団体交渉の場に臨んでから、上記委任状による組合の団体交渉委任を問題とし、そのため実質上団体交渉は行われずに終わつた。

二 そこで組合は、同年六月七日病院を被申立人として、すみやかに、<1>龍田敏子の解雇問題、<3>協定書並びに確認書の不履行の問題について、上部団体たる総評兵庫県地方評議会(以下県評という)、総評姫路地区評議会(以下地区評という)の役員の参加する団体交渉を行わなければならない旨、並びに陣謝誓約文の掲示を命ずる救済を求めるため、本件申立てに及んだものである。

第二病院の当事者能力

一 病院は、前記のとおり、日本赤十字社の経営する一施設に過ぎず、従つて、厳密にいえば、法律上権利能力を有しない。

二 しかしながら、次のような実体並びに実情が認められるところからすれば、本件の場合、救済命令の名宛人としては、病院こそが最もふさわしい存在であるといわねばならない。

(1) 赤十字病院は、日本赤十字社医療施設規則に基づき、各都道府県知事である支部長が、社長の承認を受けて、開設するものではあるが、院長を含む幹部職員以外の職員は院長がこれを任免し、院長がその管理に関する一切の業務を統理し、かつ、すべての職員を指揮監督して医療業務を行い、また、日本赤十字社医療施設特別会計規則により、その経費は当該病院の経営に伴う収入をもつて充てることが原則となつているのであり、日本赤十字社支部規則により支部の管理に服すべき事項についても、医療施設としての機能を遺憾なく発揮することができるようにするため、できる限り施設の長に専決させるよう措置することとなつている。

(2) 本件病院ももとよりその例外ではなく、現に前記交渉内容<1>の龍田敏子は看護婦であつて、その任免は病院長の専権に属し、同<2>の協定書、確認書というのは、昭和三五年一〇月四日の人事委員会に関する協定書、並びにその再確認に関する昭和三七年一二月一八日付協定書のことであるが、いずれも病院と組合との間で協定されたものである。

(3) 以前から病院長に任免権のある職員の人事に関する問題と、病院の従業員に対する一時金に関する団体交渉は、専ら病院と組合との間で行われ、而して病院と組合との間で行われる団体交渉については、病院から日本赤十字社本社に経過報告するだけで、病院が独自に行うのであり、そのやり方について病院から同本社に指示を仰いだことも、同本社から何らかの指示をしたことも全くない。

三 よつて、病院が叙上のように、事実上ほぼ完全に自主、独立かつ統一的に管理運営される一つの社会的存在であることと、不当労働行為救済制度の目的があくまで現実の労使関係に即して事実上の救済を与えようとするところにあることから考えると、救済命令に由来する権利義務の終局的帰属主体は日本赤十字社であるとしても、病院に本件における被申立人となり得る能力を認めてしかるべきものと思われる。

第三救済の利益

一 病院は、本件団体交渉事項は、前記龍田敏子の解雇問題が中心課題であつて、前記協定書等の件はそれに附随するものであるに過ぎないところ、同女はすでに神戸地方裁判所姫路支部の仮処分決定により、病院の従業員たる地位を保全されており、かつこれに対応する本案訴訟も係属しているのであるから、同女の解雇問題は訴訟によつて解決されるべく、団体交渉によつて解決される可能性は乏しいので、本件申立ては救済の利益を有しない旨主張し、この点で、申立ての却下を求めている。

二 しかし、労使関係上の問題は、団体交渉により自主的に解決されるのが本筋であつて、仮に病院主張の仮処分決定があつたとしても、それは従業員の地位を保全する限度での、しかも仮定的な処分に過ぎず、更に本案訴訟が係属しているとしても、なお団体交渉によつて解決すべき理には何ら影響するところはない。従つて本件申立てによる救済の利益が失われているとは考えられないから、病院の上記主張は採用できない。

第四病院の主張する団体交渉拒否の理由

一 前示第一記載のとおり、昭和五二年五月二六日の団体交渉が実質上行われなかつたのは、病院の拒否によるものであるが、

二 病院は、この団体交渉拒否には、次のとおり正当の理由があつたと主張し、よつて本件申立ては理由がなく、棄却すべきものであるという。

(1) 本件団体交渉の申入れは、これに先立つて行われた昭和五二年五月一八日のあつせんの結果に基づくものであるところ、あつせんの上では、組合が団体交渉の委任をなすについては、人数を絞つて個人に委任し、かつ委任事項を明確にすることとなつていたのと、前記委任状の形式とから、病院では一応個人に委任したものとみて、一旦団体交渉に応ずる旨回答したのであるが、当日その場で、念のため確かめたところから、組合は県評又は地区評という団体に委任したものであることが判つた。ところで労働組合法第六条による団体交渉の委任においては、受任者は事実上交渉を行うことを委任されるのであり、団体交渉という継続過程を円滑に進めるためには交渉担当者を固定する必要があり、また受任者を団体とするときは大衆団交を認めることともなるので、受任者は自然人に限るべきである。よつて、県評及び地区評に対する本件団体交渉の委任は無効である。

(2) 団体交渉は、当該労働組合又はその組合員の利害に重大な影響をもたらすものであるから、団体交渉の委任は組合大会の決議によるべきところ、本件の場合この手続を経ていないので、団体交渉の委任は無効である。仮に組合においてこれと異なる慣行があつたとしても、そのような慣行は違法であり、それによつて本件団体交渉の委任が有効となるわけはない。

(3) また、前記委任状に交渉内容として記載された委任事項のうち、懲戒解雇の件はともかく、協定書並びに確認書の件は、委任事項として明確でない。病院と組合との間で締結された協定書、確認書は百数十件に上るのであるから、これが履行を求めるための交渉を委任する趣旨であれば、余りにも包括的な委任であり、事実上永続的な団体交渉の委任に等しい。従つて、この点でも本件団体交渉の委任は無効である。

(4) なお、県評及び地区評は、いずれも、単一の意思あるいは統制力を有しない、単なる連絡協議のための組織であつて、組合の上部団体ではないから、病院に対し固有の団体交渉権を有するものではない。

第五病院の上記主張の当否を判断するに当り認定した事実

一 本件団体交渉事項についての団体交渉の発端

(1) 組合は、組合員の配転等につき、前記協定書及び確認書の履行を求めるため、昭和五二年四月一四日、一八日の二回にわたり、病院と団体交渉を行つたが、病院が人事委員会はすでに廃止されているとして、これに応じなかつたので、翌一九日協定書等不履行の件のあつせん事項として、当委員会に昭和五二年(調)第一〇号あつせんの申請をした。

(2) 同じ四月一九日病院は、組合員龍田敏子を懲戒解雇処分に付した。これに対し、組合では事情調査の結果、何ら懲戒事由は認められないとし、県評及び地区評の支援を得て処分撤回を求めることとなり、同月二一日病院に対し、団体交渉を申し入れた。

(3) また、組合は同月二〇日の代議員会決議に基づきスト権投票を行い、同月末頃までに上記(1)(2)の件その他春闘諸要求二三項目につき、実力行使を含む闘争態勢を確立して、執行委員会を闘争委員会とし、これに応じて五月一日頃地区評は幹事会で、龍田処分の白紙徹回闘争に取り組むことを決定した。

二 昭和五二年四月二二日の団体交渉

(1) 上記団体交渉の申入れに対し、病院は即日応諾の回答をしたので、組合は翌二二日地区評に団体交渉への参加応援を要請し、地区評は幹事会で出席者を選定した。

(2) そこで組合から地区評に対する委任状を準備した上、組合の執行委員約一〇名と共に地区評の広畑議長ら幹事約一〇名が、同日の団体交渉に臨んだところ、病院側の交渉委員は、地区評は友誼団体であつて、固有の団体交渉権を有しないから、そのような団体に対する団体交渉の委任は認められないとし、従来の慣行にも反するという理由で、組合員以外の者の退席要求を繰り返し、約三〇分後引き揚げてしまつた。

(3) そのあと地区評の交渉委員中三名の代表が、事態打開のため病院長に面会を求めたが会うことができず、吉井職員課長や堀内労務係長から、総評とは話合いはできないといわれ、結局団体交渉は行われなかつた。

三 団体交渉開催のあつせん

(1) そこで組合は、四月二六日上記解雇問題に関する団体交渉の開催をあつせん事項として、当委員会に昭和五二年(調)第一四号あつせんの申請をした。

(2) その後、病院の申入れによる同年五月一一日の、龍田敏子解雇問題及び昭和五一年年末一時金に関する団体交渉においても、あらかじめ組合から地区評が交渉に入ることを申し入れ、更に病院の照会に対し、地区評が入るのは正式の手続によるものであることを回答した上、地区評の広畑議長ら一二名が組合の執行委員約一〇名と共に交渉の場に臨み、地区評に対する四月二二日付委任状を提出したところ、病院側は、受任者が個人か上部団体でなければ、団体交渉の委任は認められない、また該委任状中の委任事項が「龍田組合員の不当解雇撤回問題その他」となつているのを捉えて、「その他」では委任の内容が明らかでないとし、これらの問題をめぐつて一時間足らず応酬しただけで、やはり実質上団体交渉は行われなかつた。

(3) 上記あつせんは、昭和五二年五月一八日前記第一〇号あつせんが打ち切られたのに続いて行われた。個別的事情聴取の段階では、組合が、団体交渉を委任した地区評は上部団体であるから、病院は地区評の役員の参加する団体交渉に応じるべきであると主張したのに対し、病院は、地区評は友誼団体若しくは連絡協議機関であつて、組合の上部団体であるとは認めがたく、委任の手続にも疑問があり、また地区評の役員が多数参加したのでは十分な話合いができないから、従来どおり第三者を交えず、組合だけとの間で交渉したいと答え、双方の主張が対立したが、あつせんの結果、組合は正式の委任状により地区評の役員個人に委任した上で、改めて団体交渉を申し入れることとなり、その場合は病院も団体交渉に応じるようにしたいということで、解決に至つた。

四 昭和五二年五月二六日の団体交渉

(1) 上記あつせんを受け、組合が別紙委任状を添付して団体交渉の申入れを行い、病院が応諾の回答をしたことは、すでに前記第一の一(2)(3)で認定したとおりである。

(2) さて五月二六日の団体交渉は、当日午後五時から行われることとなり、組合側の交渉委員として県評の奥事務局長ほか一名、地区評の広畑議長ら数名と組合の松本書記長ほか一名が出席したが、上記委任状の受任者名が県評又は地区評の役員としての肩書付きであつたところから、受任者が個人か団体かについて、病院内部に議論があつたため、病院の交渉委員佐藤事務部長が先ずその点を質した。これに対し奥事務局長が、団体として委任を受けたもので、その役員として参加している。個人として来られるわけがないと答えたところ、佐藤事務部長は、団体に対する委任に基づき、その役員として参加するのであれば、交渉は受けられないと言つた。

(3) 奥事務局長は、この点に関する従来の経過説明を病院側に求め、委任状の形式について応酬の後、受任者に付された肩書を消すが、それなら受けるのかと詰め寄つたが、佐藤事務部長は、肩書を消すか消さぬかは組合の問題であり、肩書が消されたら検討するが、仮定の問題には答えられないと述べ、結局団体交渉は実質討議に入れずに打ち切られてしまつた。

五 その他

(1) 本件申立て後も、組合は昭和五二年八月二六日、県評及び地区評に対する委任状を添付し、かつ前記別紙委任状に受任者として記載された奥事務局長ら八名を県評及び地区評からの交渉委員として表示して、龍田敏子組合員の昭和五二年度賃上げ内払の件について団体交渉を申し入れたが、病院は、県評等に対する団体交渉委任の当否については本件審査手続中であり、県評等に対し団体交渉に応じる義務もないとの理由で、団体交渉を拒否した。

(2) 叙上の団体交渉の委任は、いずれも組合の執行委員会(闘争委員会)の決議に基づき、県評に対する口頭の要請、並びに組合と地区評樋口事務局長らとの打合せによつて行われ、県評乃至地区評において出席者の人選が決定した上で、委任状が作成され、また交渉委員名の通知がなされたものである。

(3) なお、県評及び地区評からの出席者は、組合の執行委員と共に団体交渉に参加するのであり、委任の目的は交渉権限のみであつて、妥結権限は含まれていない。

(4) 一方病院側では、佐藤事務部長が病院長から一切の権限を与えられ、事務部が中心になって団体交渉に当つており、昭和五一年五月以降は、同部長、吉井職員課長、堀内労務係長ら五、六名が交渉委員として出席している。

第六病院の主張する団体交渉拒否理由の当否

一 団体に対する団体交渉の委任

(1) 別紙の委任状は、受任者の氏名に県評又は地区評の役員であることを示す肩書が付されてはいるけれども、その形式からみる限り、それら団体の役員個人八名を受任者とするものと解するほかなく、明らかに前記第一四号あつせんの結果に従つたものとみられる。

(2) にも拘らず、前記第五の四(2)のように、交渉の席上病院側の質問に対し、県評の奥事務局長が受任者は県評及び地区評という団体であり、受任者として記載された個人ではないと答え、また組合が本件において、委任は県評及び地区評に対するものであり、受任者として特定の役員個人の氏名を記載したのは、団体交渉に参加すべき交渉委員を具体的に明らかにした趣旨であると主張し、本件申立て後の団体交渉申入れに際しては、前記第五の五(1)のように、形式的にもこの主張に添う取扱いをしているのは、基本的に執行委員会の決議がそれら団体に対する委任となつていることと、委任の申出から委任状の作成に至る過程が、前記第五の五(2)のような実情にあり、交渉委員は県評又は地区評の選定によるものであることの表われであると思われる。従つて、別紙委任状による委任についても、その形式に拘らず、少なくともその実体は、県評及び地区評という団体に対する委任であると考えるべきである。

(3) ところで病院は前記のとおり、団体に対する団体交渉の委任は無効であるというのであるが、団体交渉の委任は民法上の委任(妥結調印の権限を含む場合)若しくは準委任の一場合と解すべきであるから、受任者を自然人たる個人に限定するいわれはなく、団体交渉の委任の場合につき特に団体に対する委任を禁止する法令上の根拠も存しない。なるほど病院のいうように、団体交渉という継続する過程において、これを円滑に進行させるためには交渉担当者が、ある程度限定され、固定されていることが望ましいには違いないけれども、それは運用上の問題であつて、団体が受任者になつた場合に固有の問題ではなく、また団体が受任者となつた場合、受任事務の処理として交渉に当るのは当該団体を代表する者であるから、当然に大衆団交となるわけのものではないのである。従つて、受任者が団体であるからといつて、本件団体交渉の委任を無効とすることはできない。

(4) しかし、本件で終局的に問題となるのは、県評及び地区評の役員が組合の委任に基づいて、組合の団体交渉に参加しようとすることが許されるかどうか、病院がそのような団体交渉に応じなければならないかどうかにあるのであつて、その際地区評等の役員が、個人として直接組合から委任を受けたか、あるいは組合から委任を受けた地区評等の役員として、地区評等を代表して交渉に参加するのかは、本質的に重要な問題ではないと考えられる。

(5) このような見地からすると、別紙委任状に少なくとも形式的には明らかに地区評等の役員個人に対する委任であり、あつせんの結果に従つたものであるに拘らず、病院がなおかつ委任の形式を問題とし、しかも団体交渉申入れを応諾してから交渉当日まで数日の間、何ら照会することもせず、席上卒然として質問を発し、更に奥事務局長が団体に対する委任であると答えると、独自の理論を展開して団体交渉を拒否した。病院のこの態度にこそ問題があるといわねばならない。そして前記第五の二(3)のように、昭和五二年四月二二日の団体交渉の最後に、吉井職員課長らが総評とは話合いはできないと言つたこと、あつせんの事情聴収において前記第五の三(3)のように、組合とだけの交渉を希望していたこと、並びに五月二六日の団体交渉の最後に、前記第五の四(3)のように、奥事務局長が委任状における受任者の肩書を消したらどうかと迫つたのに対しても、佐藤事務部長が明言を避け、仮定の問題には答えられないと言ったことを考え合わせると、病院の上記態度は、結局総評を嫌悪し、地区評等の役員が団体交渉に参加すること、若しくは同役員の参加する団体交渉そのものを忌避しようとしたものと考えざるを得ず、もとより正当なものとはいえない。

二 団体交渉委任の手続

病院は、団体交渉の委任は、組合大会の決議を必要とするというが、妥結権限まで委任する場合はともかく、前記第五の五(3)のように、単なる交渉権限の委任に止まり、しかも本件のように、組合の執行委員と共に交渉に参加しようとする場合には、執行委員会の決議をもつて委任し得るものと解すべく、特に昭和五二年五月以後は、闘争態勢を確立した中で、当該闘争目的事項に関する団体交渉について委任するのであるから、なおのこと、闘争委員会(執行委員会)の決議をもつてなし得るものと解するのが相当である。よつて本件の場合、組合が執行委員会の決議により団体交渉の委任をしたことには、何ら問題はない。

三 委任にかかる団体交渉事項の特定性、明確性

委任に基づき団体交渉を求め、又は団体交渉に参加しようとする場合、委任された団体交渉の対象事項がある程度明確に特定されていることが必要である。この点で、別紙委任状に「協定書並びに確認書の件」とある点は、表示として不十分であるといわねばならない。しかし、これを問題とすべき相手方である病院としては、前記第五の一(1)のように、団体交渉及びあつせんを経てきた事項であるから、団体交渉の対象、従つて委任事項の内容は十分理解できた筈である。従つて、病院がその点を問題とする必要はなく、またそのことのために、該委任状による委任が無効となる筋合もないと考えられる。

四 県評及び地区評の性格

病院は更に、県評及び地区評は、いずれも単なる連絡協議の組織であつて、組合の上部団体ではないから、病院に対し固有の団体交渉権を有するものではないという。しかし、すでに明らかなとおり本件団体交渉は組合と病院との団体交渉に、組合の委任に基づき、県評及び地区評の役員が参加しようとするものであつて、県評又は地区評が独自に病院と団体交渉をしようとしているのではなく、また団体交渉の委任を受ける団体としては、固有の団体交渉権を有する必要はなく、上部団体でなくても、また連絡協議の組織であつても、実質的に社団性があれば差し支えないものと解すべきであるから、病院のこの点に関する上記主張は、本件団体交渉の正当な拒否理由とはなり得ないものである。

第七結論

一 不当労働行為の成否

以上説示のとおり、組合が昭和五二年五月一九日申し入れた団体交渉が、その期日である同月二六日に実質上行われずに終わつたのは、組合の委任に基づき、県評及び地区評の役員が参加しようとしたところから、病院がこれを拒否したことによるのであるが、病院のこの団体交渉拒否には正当の理由が認められないので、病院の行為は、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であると判断する。

二 救済内容

(1) よつて、その救済として、主文第一項のとおり命令する。

(2) しかし、組合の申し立てる謝罪誓約文の掲示については、その必要がないものと認め、これを棄却する。

三 法律上の根拠

よつて、当委員会は、労働組合法第二七条、及び労働委員会規則第四三条を適用して、主文のとおり命令する。

(別紙)

委任状

労働組合法第六条にもとづき左記の件の団体交渉権を

奥茂吉  兵庫県総評事務局長

広畑定市 総評姫路

竹内邦夫 〃

橋爪磴  〃

樋口秀男 〃

竹内重昭 〃

間野繁俊 〃

川本修  兵庫県総評オルグ

の各氏に委任します。

交渉内容 一 懲戒解雇の件

二 協定書並びに確認書の件

昭和五二年五月一八日

日本赤十字労働組合姫路支部 [印] 執行委員長 国土博生<印>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例